虜にさせてみて?
「あのさぁ、今日はコンビニ連れてって。不便過ぎてつまらない」

「分かった」

名は高原のオーベルジュとついていても、見渡せば山ばかりだ。

入社三ヶ月は新入社員、中途採用の社員もパートも車の保有並びに運転も規則で認められていない。その為、新人は先輩に買い物などに連れて行って貰うしかない。

歩いて行けるとしても、オーベルジュがある坂道を少し下った場所にあるバーと温泉場のみ。

オマケにオーベルジュの独身者は、出勤時間と退社時間が不規則な為にほとんどが寮生活。私と響君も例外ではない。

響君がこの地に足を踏み入れた日、フロントのマネージャーに彼のお世話を頼まれた。私が休みで予定もなかったからという理由で頼まれて、休み返上で案内したり、買い物に連れて行ったりした。

響君は私には、そっけない態度をする。皆とお客様には笑顔を見せたりするのに私にだけは違う。

「なぁ、他にもどこかに連れて行けよ」

「それが人にモノを頼む言い方ですか?」

私は少し頬を膨らませて、睨みつけるように言った。

「どうせ、暇だろ?退屈なんだよ、ここは……。それに、お前は“彼女”なんだから言う事を聞けよ」

「はいはい、分かった。バーを閉めて0時ちょうどに寮の玄関で待ち合わせね?」

0時なら間に合うだろう、きっと――
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