虜にさせてみて?
「響君、“彼女”って認めてくれたの?」

「認めてないっ! ……だけど、退屈だし生意気なお前をどん底に突き落とすのは俺しかいないからな。しょーがなく、付き合ってやるだけだからな?」

私の目を見て言えばいいのに、うつむいて少しだけ赤くなって床に言うのは止めて欲しい。響君のそのギャップが可笑しくてたまらない。

「あははっ! 自信あるのか、ないのか分からないよ」

「笑うなよ。あーもー、本当、お前なんて嫌い」

私が笑い出すと捨て台詞を吐いて、誰も居ない天気の良いテラスへと出て行った。テラスは山の上だけあって、眺めも良い。

少しだけ風が吹いていて、響君の茶色ががったサラサラとした髪が揺れる。

来た当日から社員にもお客様にもモテモテな響君。綺麗な顔立ちに、あの笑顔、スマートな身体つき。

一瞬で魅力させてしまう。

この人に惹かれない人なんて居るのかな?

響君は今までどんな人と恋愛してきたんだろうか?意識する度に気になってしまう。

テラスに出ている響君が私に向かって何かを言っている。多分、それは……。

「何が馬鹿よ? 口パクだって分かるんだからね? 明日からは一人でラウンジなんだから、仕事覚えてよね」

怒り口調で言葉を発しながら、私もテラスに出てみた。陽射しの強さを感じるけれど、少し風があって気持ちが良い。

「一人の方が気が楽だ、やったね」

手すりに背を向けて、営業スマイルとは違う笑顔を私だけに向ける。見ていれば分かる。

ぎこちなさのない、はにかんだような笑顔が本当の笑顔だって事くらい。
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