虜にさせてみて?
翌日、響君とラウンジ業務を交換した時に顔を合わせた。

予想は出来ていたけれど完全無視。

無言の圧力。『おはよう』の返事すらくれない。

私は『お願いします』とだけ言って、社員食堂に向かった。

ご飯を食べていると美奈からメールが来て、『今日は6時上がりだから仕事終わったら、部屋に来て』と。

美奈も何かがあった?

いつもなら、真っ先に湊君の部屋に遊びに行くのに。

私がヤキモチを妬かせてしまったせい?

湊君と響がフォローしてくれたけれど、ケンカでもした?

……だとしたら美奈に申し訳ない。

周りから気が利くね、とか優しいねって言われる。けれども、その逆で本当は気が利かなくて、我が儘で自分勝手な女なんだ。

ごめんね――

コンコンッ。

仕事が終わり、一足先に帰ったと思われる美奈の部屋のドアをノックした。

「お疲れ様、ひより。どうぞ」

「お邪魔します」

可愛いらしい美奈の部屋。

ベッドの周りがテディベアで埋めつくされていて、とても寮の一部屋とは思えない程、女の子らしく、小物も沢山飾ってある。

美奈がティーパックの紅茶を入れてくれた。

「ねぇ、ひより。湊がね……」

「ん?」

予感的中だったのでドキッとした。

やっぱり、湊君の事だったから。

「響君の様子が変だって言うの。朝早く、湊が出勤する時間あたりに電話がきたから出ても、何でもないって言ってたらしい。夕方、ケーキを下げに行った時も、ぼーっとしてて、話しかけたらティーカップを割っちゃったみたい」

え?

響君の事だった。湊君の名前から話が始まったので、てっきりそうかと思ったがどうやら違う。
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