君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
今思えばあの日の郁人さんとの会話にはたくさんの共通点があり、引っかかってもおかしくなかったけれど、まったく気がつかなかったのは、たとえ絢子さんがこの世を去ったあとでも母が親友の心を踏みにじるような行為は絶対にするはずがないからだ。

さらに、そんな誤解があったとは知らなかったせいで、私が事前に彼に取り入ろうとしたという濡れ衣まで着せられるなんて……。

「大丈夫かい? 顔が真っ白だ。少しふたりで話そう。付いておいで」

桐嶋のおじさまに促された。

郁人さんは無言、真紘さんはいってらっしゃいとのん気に手を振っている。

付いていくべきか迷ったけれど、ここで突っ立っていてもどうにもならないだろう。

私は応接室のような部屋に通され、重苦しい気持ちで豪奢なソファに座った。

温かいお茶を持ってきてくれたお手伝いさんが去っていくと、室内は桐嶋のおじさまとふたりきりになる。

そういえば母の葬儀が終わったあと、桐嶋のおじさまに『交際している相手はいるのかい』と訊かれたことがあった。あれはこれが理由だったのだ。深く考えずに『いません』と答えてしまった。

「お茶を飲みなさい。少しは落ち着くだろう」

桐嶋のおじさまの言葉にティーカップを手に取るも、喉を通りそうもなかった。

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