君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「結婚なんてできません」

意思を伝えると、彼は困ったような顔になる。

「私の息子はお気に召さなかったかい?」

「そうではありません。こんなのは……」

騙し討ちだという言葉を喉もとで堪えた。郁人さんは誰が見ても素敵な男性で、その上桐嶋ホールディングスの御曹司なのだ。私みたいななんの価値もない女が口にするにはおこがましすぎる。

「こんなのは?」

「……ひどいです」

私はあの日、まさか自分が郁人さんの結婚相手だと知らずに、彼と娘さんがうまくいく可能性はゼロじゃない、会ってみたらどうなるかわからないと思っていた。

まさか事前の合意もなく、こんな強硬手段で顔合わせをさせられるとは思ってもみなかったからだ。

さっき桐嶋のおじさまは、『紛らわしい言い方をしてしまったね』と言ったが絶対に意図的だ。私が勘違いするとわかっていて、あえてあんな言い方をしたのだろう。

そこまでして私と郁人さんを結婚させたいのはなぜなのか。

やっぱり母と桐嶋のおじさまが深い関係にあったから?

今後も母とのつながりを保つために、私を息子の妻にと考えているの?

たった今、ありえないと胸の内で断言したのに、あまりにも不可解な状況に早くも揺らいでしまう。

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