君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「嘘、兄さん実は乗り気だったんだ? ずっと怖い顔してるから相当結婚したくないのかと思ったよ。そういうことならおめでとう」

私にぐいぐい迫っていたはずの真紘さんは、あっさり私と郁人さんを祝福した。

私は呆然と立ち尽くしてしまう。

郁人さんは相変わらず私に嫌悪感を剥き出しにしているのに、いったいどういうつもりなのだろう。

私と結婚すると宣言しておいて、こちらを見ようともしない。裏腹の態度に困惑を隠しきれなかった。

「みちるちゃん、純情可憐でかわいいもんね。さすがの兄さんも――あ、友だちから電話だ」

鳴り出したスマートフォンを片手に、真紘さんは「じゃああとはふたりでね」とリビングを出て行った。

突然郁人さんとふたりきりになり、気まずい沈黙が流れる。

桐嶋のおじさまは、私と郁人さんの双方がこの結婚に難色を示すのなら諦めると言っていた。

思いも寄らない展開に、先行きが不安になってくる。

「真紘は父と君の母の仲を知らない。今後も話すつもりはない」

郁人さんは静かに口にした。

やっぱり真紘さんはなにも聞いていないのだ。だから私にも普通に接してくれるのだろう。

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