君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
その夜も、午後十一時を過ぎて帰宅した郁人さんを佐藤(さとう)さんというお手伝いさんと出迎えたあとは、互いに別々の時間を過ごし、午前一時頃に寝室に入った。

ベッドは大きくて、郁人さんは寝相もよく、寝息も聞こえないくらい静かだ。でもそれが余計に落ち着かず、正直ぐっすり眠れた日はない。

仮にも夫婦になったとはいえ、とんでもなく緊張するのだ。

「今夜も眠れないのか?」

目が冴えたまま三十分が過ぎた頃、いつも隣に私がいないかのように振る舞っている郁人さんに突然声をかけられた。

『今夜も』とは、もしかしてずっと私の様子を窺っていたのだろうか。

「え……はい」

「ベッドがひとつなのは、父や真紘に疑われないようにするためのカモフラージュだ。セックスまでしろとは言わない。だからさっさと寝てくれ」

「なっ……!」

「君がいつまでもそんなふうに神経を尖らせていると、こちらまで息苦しくなる」

煩わしそうに告げられた。

そこまで突き放された言い方をされると傷つかずにはいられない。

私は男性とベッドを共にするのは初めてだし、別に警戒しているわけじゃなくても、どうしてもそわそわしてしまうのだ。

< 40 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop