君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「どうぞ、召し上がってください」

ドキドキしながら促した。

「……いただきます」

郁人さんはカトラリーを手に取る。

母以外に手料理を食べてもらうのは初めてだ。郁人さんは私の平凡な家庭料理を受け付けてくれるだろうか。

ローストビーフをひと切れ口に運んだ彼が、違和感を覚えたようにそのお皿を見つめる。

「いつもと違うな」

「まずいですか?」

やっぱり口に合わなかったのだろうか。

彼の眉間にしわが寄っている気がして不安が募った。

「いや、おいしいよ。佐藤さん、レシピを変えたのか?」

彼の言葉に、私はぱあっと顔を輝かせる。

「これ、私が作ったんです」

「君が?」

郁人さんは私が料理を並べただけだと思っていたようだった。

「はい。おいしくできたのは、とってもいいお肉だからかも」

私も食べてみると、濃厚なお肉の旨みと甘みがあって、口の中でとろけた。以前特売肉で作ったものとはまるで別物で、とても上品な味わいだ。

「わあ、本当ですね。こんなにおいしいローストビーフを食べたのは初めてです。って手前味噌ですが」

過去一番の出来だった。

つい今の関係も忘れ、あの日みたいににっこり微笑みかけた。

< 46 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop