君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
滞在時間三十分足らずで、真紘さんは母屋に帰っていた。

すると郁人さんは、もうダイニングには用はないとばかりに立ち上がる。

「あの、郁人さん、習い事の件ですが、本当にいいのですか?」

慌てて郁人さんを呼び止めた。

「別に半年間なにもさせずに飼い殺すつもりではない」

「……そんなふうには思っていません」

「ではなんだ?」

「……郁人さんが許可してくれるなら、すぐにでも英会話とマナー講座に入会したいです」

「ああ、わかった」

なんの関心もなさそうな、素っ気ない返事だった。

真紘さんがいなくなった途端、言葉が続かない。

今夜はこれが私たちの最後の会話になるのだろうか。

「乗馬クラブも好きにすればいい。ただし、真紘とふたりきりになるのは許さない」

いきなり強い語気で言いつけられ、眉をひそめる。

「……それは、私が真紘さんを誑かそうとするかもしれないって疑っているからですか?」

「そうだ」

即答され、思わず自分の胸もとを鷲掴みにした。

そんなことするはずがない。そもそも私は郁人さんを誑かそうともしていない。

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