君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
屋敷に着き、門の前でタクシーを降りると、郁人さんはまた私を抱き上げてくれる。

「もう大丈夫です。歩けます」

慌てて遠慮した。

でも降ろしてくれる気配はない。

「もう少しだけお姫さまでいろよ」

ささかれて耳まで熱くなった。

昨日のやりとり覚えてくれていたなんて。

私はお姫さまじゃない。

郁人さんが王子さまなのだ。

今夜もどこかで私を見守り、救い出してくれた。

だから……。

「こんなに汚れたボロボロのお姫さま、世界にひとりくらいはいてもいいですか?」

私の質問に、郁人さんが少し微笑んだ気がした。

思い過ごしでもいい。

夢みたいな夜だった。


離れに戻ってお風呂を済ませると、郁人さんは私の足首に湿布を張って応急手当までしてくれた。

少し挫いただけで、もうなんともないのに、あまりの過保護ぶりに戸惑ってしまう。

それでも彼の気持ちがうれしかったから、湿布はしばらくそのままにしておいた。

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