君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
翌日、私が作った朝食をふたりで食べて、いつものように玄関で彼を仕事に送り出す。

私が料理をするようになってから、お手伝いさんの佐藤さんが来てくれるのはもう少し遅い時間になったので、朝はふたりきりだ。

「行ってくる」

「はい、いってらっしゃいませ。あの、郁人さん」

「なんだ?」

「私、郁人さんがなにを考えているのかわかりません」

せっかくのいい雰囲気を台無しにしてしまうかもしれないけれど、言わずにはいられなかった。

ほんの少しだけでいいから、言葉にして教えてほしい。それはわがままだろうか。

「どうして昨日、私に優しくしてくれたのですか?」

彼が私を愛せないと言ったのは、きちんと覚えている。

それでも今一度、彼の心が知りたかった。

郁人さんは無言で私を見つめる。

そうして背中を向けて一言。

「俺にもわからないんだ」

それだけ口にして、玄関を出て行ってしまった。

――夜、仕事を終えて帰宅した彼は、昨日のことなどなにもなかったかのように、いつもの冷たい態度に戻っていた。



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