俺はずっと片想いを続けるだけ
(そうだ、何か食べたら元気になる!)

枕元の呼び鈴を鳴らしました。
扉がノックされて、入ってきたのは旦那様でした。

「君の足が余りに速くて追い付けなくてごめん」

旦那様はベッドサイドのテーブルに朝食を置きました。
昨夜も恥ずかしかったのですが、この明るさでは私のスケスケ具合がひどくて、隠せるだけ隠したいと思いました。
私はガウンの前を合わせ、シーツを更に巻き付けました。

「走るのだけは得意なんです」

「カン蹴りのキックが正確なのと、一輪車の蛇行が見事なのも知ってる」

「……」

「君の鉄棒の前回りはすごく美しいし、使用した遊具は率先して片付ける
 ひとりで居る子供を見つけたら遊びに誘って、それから、後は……」

旦那様の話は続いていますが、仰る事が理解出来ません。
全部、私の初等部の頃の話です。

「俺、気持ち悪くてごめん
 ずっと見に行ってたんだ、昼休みに」


取り敢えず朝食をいただいていますが、目の前に旦那様がいて私の顔をじっと見つめているので、食べている気がしません。
今まで、こんな感じで正面から見つめられる事はなかったから……

「10年間君に片想いしてたよ」

(うっ、)

サラダを食べていたのですが、玉子を噛まずに飲み込んでしまって。
むせて咳き込んだ私にお水のグラスを旦那様が手渡してくれて、お互いの指が触れてしまい、心臓が飛び上がりました。

(何なんだ、これ、あま、甘過ぎるっ!)

今までの旦那様とは違い過ぎます!
もしかして双子の弟さんかと思うレベルの別人です。

「自分の変な所をバレるのが嫌で、格好つけてて素直になれなかったんだ」

ちょっと頬が赤くなって照れている旦那様がたまりません。

(何か私もおかしくなってる!)

「でも昨夜君に逃げられて、そこの廊下で夜を過ごして気がついた」

廊下? そこの廊下で?
夜を過ごしたの?

「もうすぐ俺は死ぬ」
< 24 / 26 >

この作品をシェア

pagetop