見た目九話~冴えない遠藤さんに夢中です~
 月曜日、食堂に姿を見せた遠藤は、いつも通り眼鏡を掛けていた。そして無造作な髪にうっすらと髭も生えていた。

「どうしたの? 寝坊しちゃった?」

 愛美は思わず聞いた。

「違うよ。愛美ちゃんが……妬くから」

「……ふーん」

 軽く聞き流すように返したが、愛美の心は嬉しさと安堵感で満たされていた。

「あ、また愛美ちゃんと被った。ハンバーグ!」

 遠藤のトレーにも愛美と同じデミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグが乗っていた。遠藤は愛美のペースに合わせてそれをゆっくりと口に運ぶ。時折笑顔を交わしながら……。
 何となく女子社員の視線を感じていたが、もう気にしないことに決めた。


「おつかれ~! あれ、遠藤さんどうしたんですか? 今日寝坊しました?」

 遅れてやってきた博子が、愛美と同じことを聞いた。

「ああ、いや……やっぱり俺はこっちの方が落ち着くかなって」

 遠藤はそう誤魔化してくれた。

「あ! まー君、ソース付いてるよ、ここ」

 愛美が人差し指で自分の口元を指して言った。

「ま、まま、愛美ちゃん! まー君はマズイだろ」

 遠藤は顔を真っ赤にして慌てている。

 ――遠藤さんはやめてほしいってあんなに言ったくせに。

 愛美は遠藤に抗議の視線を向けた。

「ああ……そういうこと? 休みの間にね」

 状況を察した博子が、ニヤニヤしながら続けた。

「別にいいんじゃないですか? うち、社内恋愛禁止じゃないし」

「いや、でも流石にまー君は……」

 遠藤の言葉を聞き、愛美は腰を上げトレーを持ち上げた。

「それじゃあ意味ないじゃん」

 眉根を寄せてそう返してから、遠藤と博子を残して返却口に向かった。

「あーあ、愛美ちゃん拗ねちゃった」

 博子の声が聞こえていた。


「おう、愛美ちゃん!」 

 同期の中平(なかひら)将吾(しょうご)(通称なかしょう)に呼び止められて立ち止まる。

「なかしょう! 久しぶりだね。出張行ってるって聞いてたよ」

「そうそう。昨日帰ってきたんだ。早速今日飲み会するんだけど、愛美ちゃんもおいでよ。まあ男ばっかだけど」

「ああ……えっと……」

 愛美は返答に詰まった。


「――愛美!」

 食堂に響き渡った。
 愛美が振り返ると、食堂にいた社員達がキョロキョロと辺りを見回しざわつきだした。
 椅子から立ち上がった遠藤が言う。

「愛美、仕事終わったら一緒に帰ろう。待ってるから」

 愛美は頬の火照りを感じながら、遠慮がちに小さく頷いた。
 遠藤も三日月の目をして、頬を染めていた。





【完】
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