まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「あのときの栞里は少しおかしくて、結に怒りの矛先が向かないようにするので精一杯だった」

 声だけを聞いていた私にも栞里さんが一哉さんにすがるあまりヒステリックを起こし、どこかおかしかったのが分かった。

 咄嗟についた嘘だったと知り少しホッとするものの、まだスッキリしきれていないのも事実だ。

「他にも何か不安があるなら言ってくれ」
「え?」
「結に嘘をつく気はないよ。なんでも正直に答える」

 察したように柔らかい表情でぎゅっと手を握ってくる。私は自分の中の不安を探し出しながら、浮かぶ栞里さんの言葉を思い出した。

「じゃあ契約結婚の話を栞里さんにしたって言うのは……」
「あいつがそう言ったのか?」

 なぜか彼は驚いた顔を見せる。私がこくりと頷くと、一瞬考えたような素振りを見せた。

 京都のホテルで栞里さんが確かに言っていた。だから私は契約結婚の相手は自分じゃなくても良かったんだと虚しくなったんだ。

 すると、何かを思い出したように一哉さんが「ああ」と声を出した。

「昔、あまりにも結婚するとうるさいから言ったことがある。もし俺が結婚するとしたら、何かこちらに利益をもたらす契約付じゃないとあり得ないなと」

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