まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
 外へ出たら自然と彼の腕に手を回すよう動かされ戸惑っていると、同じように着物を着た人々がどこかへ向かっていた。彼の歩く方へと一緒になって歩いていたら、すぐに月島園の式場が見えた。

 張られていたロープはいつの間にかなくなっていて、ウェルカムボードには『オープン記念パーティー』との文字が見える。

「君は今日一日俺のパートナー。そのつもりで」

 こっそりと耳打ちされ目が大きく見開いた。

 その時周りにいた女性たちから一気に広がるように場が騒ついていく。注目はこちらに集まっていてどきっとした。

「こ、これはどういう」
「黙って、堂々としてればいい」

 内心、そんなことを言われてもと手に汗握りながら恐る恐る前を見たら、周りにいる人々が見覚えのある顔だと気づく。

 あの人もあの人も、その向こうにいる人も、みんないつものお茶会で見る顔ぶれだ。

「まさかこれって」
「気づいたか。招待客はみんな関東着物組合の皆さんだ」

 血の気が引いていき一気に記憶が蘇る。巧さんに見放されたあの神社で痛いほどに感じた冷たい視線が、感覚としてぞわっと思い出される。

 無意識に一哉さんの腕を積む手に力が入った。

 会場に入ったら無数のテーブルと豪勢な食事が並んでおり、華やかなな立食パーティーが始まろうとしていた。奥様方の上品な笑い声が方々から聞こえてきた。


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