まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
『電話でお伝えしたはずです。結婚相手を連れていくと』
『ええ、でもその相手は栞里(しおり)さんのはずでしょう。それがどうして』

 応接室に通され、向かい合うふたりの間にはバチバチと火花が散っていた。知らぬ名前にどう反応したらいいか分からないまま気配を消すのに必死になった。

 唯一の助けは正面で大人しくしていた一哉さんの弟の樹(いつき)くんがいたことで、中学の制服を着たまま無表情で座っている姿になんとなく通じるものを感じた気がした。

 きっとこの気まずさを共感してくれるだろうと思い、一瞬目が合ったところで苦笑いを浮かべてみた。しかし彼は冷めた瞳でこちらを見つめてから感じ悪く目を逸らしてきて、どことなく初めて会った時の一哉さんを彷彿とさせた。

 結局私たちの結婚は認められないまま一哉さんが無理矢理押し進めた形で今日の式を迎えた。お義母さんは列席者の皆さんの前では女将として振舞っていたけれど、内心勝手な行動にはらわたが煮え繰り返っているに違いなかった。


「ただ」
「は、はい」

 座ったきり黙り込んでいたもので気を抜いていたら、突然小さく声を出されまたもやびくっと心臓がはねる。

「今日この場にいる皆様にとってはあなたが月島の嫁です。その名に恥じぬよう振る舞いなさい」

 おもむろに立ち上がるお義母さんは棘のある言葉を残して去っていく。横からは呆れたようなため息だけが聞こえてきて、ひどいプレッシャーを感じたような気がした。

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