まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「これはね、私がお嫁に行くときにもらった母の肩身みたいなものだったの。気づいたら落としてしまっていて。でもおばあさんがこんなに可愛らしい蝶ひとつに必死になっているのは恥ずかしくって、もう諦めようと思ってたの」
「そんな」
「これがわかるなんて、一哉ちゃんと結婚した鷹宮のお嬢さんってあなただったのね」
優しい表情で微笑まれどきっとさせられる。後ろでは一哉ちゃんと呼ばれた彼が首元に手をやりながら「この年でその呼び方は」なんてぶつぶつと言っていた。
「女将、月島旅館もまだまだ安泰ね」
「恐縮でございます」
一瞬面食らったように目を丸くしたものの、すぐにいつもの営業スマイルに戻った。
『まだまだ安泰』
その言葉がぐさっと心につき刺さる。
私は契約妻であと半年でいなくなるのだと一瞬忘れかけていた。こんな風に言ってくれる人がいて、認めないと言いながら真剣に育ててくれている女将がいて、そんな人たちみんなを欺いていると思ったら胸が痛かった。
「一哉ちゃん」
「だからやめてください」
タクシーに乗りこもうとするところで、秋吉様はすぐ近くにいた彼に視線を向けてにっこり微笑む。
「昔より随分と柔らかい表情をするようになったわね。彼女のおかげかしら」
一哉さんとちらりと目があった。私が影響を与えるなんてそんなことがあるのだろうか。でもそれが本当なら嬉しくて口元が一気に緩んだ。
「そんな」
「これがわかるなんて、一哉ちゃんと結婚した鷹宮のお嬢さんってあなただったのね」
優しい表情で微笑まれどきっとさせられる。後ろでは一哉ちゃんと呼ばれた彼が首元に手をやりながら「この年でその呼び方は」なんてぶつぶつと言っていた。
「女将、月島旅館もまだまだ安泰ね」
「恐縮でございます」
一瞬面食らったように目を丸くしたものの、すぐにいつもの営業スマイルに戻った。
『まだまだ安泰』
その言葉がぐさっと心につき刺さる。
私は契約妻であと半年でいなくなるのだと一瞬忘れかけていた。こんな風に言ってくれる人がいて、認めないと言いながら真剣に育ててくれている女将がいて、そんな人たちみんなを欺いていると思ったら胸が痛かった。
「一哉ちゃん」
「だからやめてください」
タクシーに乗りこもうとするところで、秋吉様はすぐ近くにいた彼に視線を向けてにっこり微笑む。
「昔より随分と柔らかい表情をするようになったわね。彼女のおかげかしら」
一哉さんとちらりと目があった。私が影響を与えるなんてそんなことがあるのだろうか。でもそれが本当なら嬉しくて口元が一気に緩んだ。