午後2時のカフェオレモーニング
「ここはね、私の旦那の書斎。旦那も作家だったの。あなたとは全く正反対のお堅い雰囲気の人だったけど、ミステリー作家だった。もう5年前に病気で亡くなってしまったけどね。」
その書斎の片側は天井まで本棚で、本で埋め尽くされていた。
そして、外が見えるように机が配置され、それと同じく外が見える位置にロッキングチェアーが一つあった。
「旦那は行き詰まるとよくそのロッキングチェアーに座って外を眺め、パイプをふかしていたの。そのせいか肺癌になってしまってねー。死んじゃった。」
「その時のままだよね・・・素敵な空間だけど・・・そんな大切なところ借りられないよ。」
「こんなことでもないと先に進めないでしょ。だから良かったら使って。」
「・・・いいの・・・ 本当に?」
「いいのよ。あなたがここを気に入って書けるなら・・・あなたならいい。」
「・・・俺のこと何も知らないくせに・・・」
「そうでもないわよ。口下手で、でも語れないことを文字にしている。シャイで・・・優しい。・・・どう? 違う?」
「どうだろ・・・」
「フフフ、では決まりね。・・・そうだ、約束して。ここのことは他の人には言わないこと。それと直ぐに山田さんに電話を入れて締め切りは守るからって言うこと。」
「・・・はい・・・」
「あのね、旦那は締め切りには決して遅れなかった。それだけが自慢だって言っていたの。自分が作家としてやっていけるのは出版社のおかげだから、彼らには迷惑を掛けられないって。あなたにもそうして欲しい。そういう作家になって欲しい。それが願いかな・・・」
「・・・そう・・・します。俺、ずっと一人だったからか、面倒くさかったりうるさかったりすると遠ざけてしまう癖がついていた。迷惑かけてた・・・」
「でもこの店にはずっと通ったじゃない? うるさくなかったの、私?」
「あー、なんか心地よかった。普通に話してくれるから・・・」
「そう。」
「ここのところちょっと書けなくて悩んでいたら居酒屋のオヤジが場所変えてみたらって、使っていない別荘だから自由に使っていいと貸してくれた。別荘は静かなんだけど広すぎてなんだか落ち着かない。だから夜になってから書いていたんだ。でもここは落ち着く。・・・今日も使っていい?」
「どうぞ。ここは、お店が開いている時間は使っていいわ。朝7時から片付けが終わる夕方6時まで。外出するときは声を掛けてね。」
「はい。一度別荘に戻ってパソコン持ってきます。」
「山田さんに連絡して謝罪すること。それと、GPSは切りなさいね。」
「はい・・・」