俺はずっと片想いを続けるだけ*2nd
結果として。
張りきって夫婦の寝室にかけられた、
高額な制作費と運賃をかけて届けられた
東国製手織りカーテンは……

床まで10センチ足りなかった!

納得出来ないので、発注した商会に注文書を確認すれば、確かに実際より10センチ短い長さで。
俺が、俺が……発注していた。

ファブリックの悪霊はここまで、俺にその悪しき力を見せつけた。
そして、我が家の魔女(妹)も、俺に呪いの言葉を浴びせた。

「だから、お金だけ出してね、って言ったのに!」

金以外、口も手も出してはいけない俺は、
せめて手伝いたくて長さを測る事を申し出た。
その結果が10センチ足らず。


「折り返しの部分を延ばしてみましょうか」

母がてきぱきと指示を出した。
手の空いているメイド達が総出で、延ばしてくれた7センチ。
皆の優しさも俺の哀しみを救う事は出来なかった。


壁紙は浮かせた地模様の入ったアイボリー。
照明は硝子の傘の部分に、天使の好きな黄色い
スイートピーの透かし彫りが施されている
アンティーク調。
…そうだ、3センチ短いカーテン以外は完璧だ。

そして、ふわふわもこもこしたグレイス。
彼女の金髪と紫の瞳は、なんて薄ピンクのもこもこに似合うのだろう。
…やはり、3センチ短いカーテン以外は完璧だ。


「何で君には、かっこいいところを見せられないのかな……」

「……」

彼女は黙って、俺の両方の耳朶を軽く引っ張る。
何故かわからないけど、そうするのが気に入っているみたいで笑ってしまう。


「良かった、笑ってくれて」

「……」

「お願い、ずっと笑っていて」

俺は真新しいベッドの上で天使を抱き締める。


「カーテンって、短いと夏は涼しいわ」

「……冬は外の冷気が入って寒くなるよ」

「だから、寒い時はずっと抱いていてください」
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