色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅱ
 リビングルームにあるソファーに太陽様を座らせると。
 シナモンは大急ぎで何かを準備した。
 ランタンに映し出される太陽様は酷く衰弱していて。
 同一人物かと疑いたくなるくらいだった。

「太陽様、ホットミルクです。飲んだら、落ち着きますよ」
 マグカップになみなみと入っているホットミルクをテーブルに置く。
 シナモンは太陽様の隣に座ると背中をさすり始めた。
 私はよくわからなかったけど、とりあえずシナモンの前に座った。

 孤児院を訪れた後も毎日のように、太陽様とは顔を合わせていたけど。
 こんなに衰弱している太陽様を見るのは初めてだ。
 うつろな目で何も発しない太陽様。
「大丈夫。私も経験があります。必ず、貴方様を見てくださる人、手を差し伸べてくださる人がいますよ」
 何を言ってるんだろう?
 わかりきったように語りかけるシナモンを黙って見つめるしか出来ない。

 世界は誰もいなくなったのかな…と勘違いするくらい。
 夜中は静かで。
 眠たい自分にとって、目の前にいる2人は何だか夢の中の人物のように思える。
「眠れない時、誰かが(そば)にいたら救われますよね」
 シナモンの言葉にはっとする。
「太陽様の側にはちゃんといますから。安心して話してくださいな」
 まるでカウンセリングだなあと感心しながら見ている。
 シナモンは太陽様のただならぬ危機に気づいたということか。
 太陽様はゆっくりとこっちを見てきた。
「…敵にとどめを刺すことが出来ません」
「へ?」
 太陽様は顔を手で覆った。
「すいません。こんな夜中に…迷惑かけて」
「確かに迷惑ですし、キモいですけど、辛いときはお互い様ですよ」
(おーいっ)
 背中をさすりながら、シナモンは思いっきり毒をぶちまける。
 キモいとまでは言っちゃ駄目でしょうが。
「太陽様がたまにうちの前でうろうろしているのは知っています。でもそれはエアー様が好きだからの行動ですもんね」
「え、ウロウロしてたの!?」
 初めて知る事実に大きな声が出る。
 そりゃ、シナモンがキモいと言うのも納得だ。
「すんません。心配が限界を超えるとウロウロしちゃうんです。それに、俺、先生のピアノの音色聴くの好きだから」
「まあ、治安が良くないって考えると好きな人を心配する気持ちもわかりますよ」
 毒を吐いているわりに、シナモンは太陽様の言うことを否定しない。
 一体、何なんだこの2人は。

「俺、弱いんですよ。だから、国王にも見放されて。長期休暇与えられて…でも、俺はどうしても敵にとどめを刺すことは出来ません」
「この世には必ず救世主はいます。太陽様の救世主はエアー様なんですよ。だから元気出して」
「オイッ、どういうことよ」
 声に出てしまったが、シナモンは私を無視する。
 2人のよくわからない会話を黙って眺めることしか出来なかった。
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