泡沫の恋
三花の予想通り、計画していた通りの観光は全くできなかった。

それでも行きあたりばったりに可愛いお店に入って買い物を楽しんだり、予定には入れていなかったチーズケーキを食べたりと意外にも充実していた。

班行動中、三花と山上君が一緒に歩くから自然と私と九条がペアになった。

教室だと休み時間や昼休みに話をする程度でここまで長い時間一緒にいたことはない。

でも、九条といる時間は楽しくておしゃべりが尽きなかった。

修学旅行とはなんの関係もないお互いの家族のこと、中学時代のこと、好きなこと嫌いなこと、色々な話をして盛り上がった。

あっという間に自由時間が終わり、集合場所に向かう。

先生たちは慌ただしく点呼する中、隣にいた三花が私の腕にぎゅっと腕を絡めた。

「なんかいい感じじゃん?」

「三花、気遣ってくれてた?」

私が九条といられるように、三花はあえて山上君と一緒にいてくれたんだ。

「まあね。こういうときじゃないとなかなかしゃべれないじゃん。で、どう?」

「……最高!色々話せたし、なんか……もっと好きになっちゃった」

照れ臭くなってボソボソ言うと、「愛依、可愛い~!」と三花がからかう。

近くにいた男子が私たちのやりとりを不思議そうに眺めていてなんだか急に恥ずかしくなる。

「でさ、今日の夜九条と山上の部屋にナイショで遊びに行くことになったから。よろしく!」

「え、嘘。でも、先生にバレないかな?」

異性の部屋の行き来は禁止されているけど、毎年女子が男子の部屋に遊びに行くのが定番化しているらしい。

今年こそそれを阻止すべく先生たちが見回りを徹底するって言っていたけど、大丈夫なんだろうか。

「平気平気!男子が女子の部屋にってより、女子が男子の部屋にってほうがいいでしょ」

「うーん、まあ確かに」

そう頷いた時、点呼を終えた先生が順番にバスに乗るようにと指示を飛ばす。

バスの乗り込み座席に体を沈めるてしばらく経つと、バスガイドさんの合図のあとなだらかにバスは動き出す。

窓の外の札幌市の説明をしてくれているガイドさんの柔らかい声が子守歌のよう。

隣ではすでに三花が窓にもたれかかって爆睡していた。

ゆっくりと目を閉じる。

瞼の裏に九条の顔が浮かんで、私は幸せな気持ちを抱えたまま夢の世界に落ちていく。
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