泡沫の恋
九条賢人side
九条賢人side
一日目の夜、ホテルのエレベーター前の自動販売機で炭酸ジュースを買ってその場で一気飲みした。
緊張で喉がカラカラに乾いていた。
『もうすぐ今井と春野来ると思う』
風呂上がりの濡れた髪をタオルで拭きながら翔太はなんてことない様に言った。
いつの間にそんな約束を取り付けていたんだと尋ねると、今井と二人でいる時にしたらしい。
春野がこの部屋に……?
俺達は5人部屋だけど、他の奴ら3人は隣の部屋の奴らとポーカーをやりに少し前に出て行った。
先生たちの定期巡回の時間になるまでどうせ戻ってこないだろう。
もう少し早く言ってくれればこんなふうに動揺せずにいられたのにと心の中で言い訳をする。
『もしかして緊張してんの?』
全てを悟ったようにニヤニヤ笑う翔太を横目で睨む。
『ちげーよ。つーか、見つかったら春野たちがヤバいじゃん』
『ははは。大丈夫だって。不健全なことしようとして呼んだわけじゃないからさ』
『当たり前だろ。なんか飲んでくる』
そう言って部屋から出て気持ちを落ち着かせていると、上階から降りてきたエレベーターがチンっという音を立てて止まった。
「あっ、九条じゃん!」
扉が開く。そこには春野と今井の姿があった。
ピンク色のペアルックのTシャツに高校のハーフパンツ姿の二人。
同じく風呂を出たばかりなのか、まとめてアップにしている髪は俺と同じように濡れていた。
「おー」
今井に曖昧に返事しながらも俺は春野から目が逸らせなかった。
メイクを落とした春野の顔はいつもより少し幼くて髪を上げているせいか雰囲気も違う。
少し赤らんだその顔に翔太が言った不健全という言葉が頭に浮かび上がって慌てて思考を切り替える。
「つーか、見つかったらヤバい。部屋こっちだから」
俺は二人を先導するように一歩先を歩き出した。