泡沫の恋

春野愛依

春野愛依side

翌日の昼休み、屋上でお弁当を食べながら昨日の出来事を三花に話した。

「へぇ、九条迎えに来てくれたんだ?よかったじゃん」

「そうなの。もうほんと嬉しくて死ぬかと思ったんだけどね、それ以上にヤバいことがあって」

「なにそれ」

そう尋ねた後、三花がお弁当のから揚げを口いっぱい頬張った。

「九条の持ってたビニール傘がひっくり返っちゃって全身びしょ濡れになっちゃったの。で、メイクは崩れるし、前髪もぺしゃんってなっちゃってさぁ」

ゴクリとから揚げを飲み込んだ後、三花が吹き出す。

「あはははは!傘ひっくり返るとかコントじゃん」

そのときの様子を想像したのか三花はひーひー言いながら手を叩いて笑った。

「コントとかじゃなくて私にとっては一大事だったんだから!」

「ははっ、そりゃそうだ。好きな人に目の下黒くなってんのとかファンデ剥げてんのみられんのは嫌だわ」

「でしょ~?九条はすっぴんでも可愛いって言ってくれたけど、それとこれとは話が別だよね」

「って、なになに。九条ってば愛依のこと可愛いとか言うんだ~?アンタ達絶対両想いじゃん!!」

「だといいんだけどさ……」

九条とは毎日連絡を取り合ってる。

部活の練習で忙しいはずなのに、九条はマメに連絡をくれる。電話だけでなくメッセージも送るとすぐに返信がくる。

「花火大会の日、告られるの確定じゃん!」

「まだ分かんないよ。それに、期待してていざ違ったら相当ショックだし」

「まあ99%は告られると思うよ。あっ、でもその日盛り上がって九条の家行ったりしてそういうことしちゃダメだよ?」

「そういうこと?」

「エッチ。九条のことだしないとは思うけど、避妊だけはしなよね」

「な、ないよ!そんなことになんてならないから!!」

私は真っ赤になりながら首をブンブンっと振る。

「ならばよろしい」

「えっ、ねぇ。三花は彼氏とそういうことしてんだよね?」

「なに、急に。あたしの話はいいって~」

「いいじゃん!教えてよ」

「いいよ。なんか恥ずかしいしさ」

三花はちょっと照れ臭そうに誤魔化す。

仕方ない。違う機会に教えてもらおう。

気が早いけどもう浴衣も買ったし、当日の髪型も決めた。

当日肌荒れしないかだけが心配だ。夜更かしは厳禁だししばらくは早く寝なくちゃ。

「そういえば、今週模試じゃん。勉強してる?」

お弁当を食べ終えた三花が蓋を閉めながら尋ねた。

「あー、全然。やんなきゃいけないんだけど、なんか花火大会のことばっかり考えちゃってなにも手につかなくて」

「今回の模試は結構大事だってよ。愛依は将来、出版社で働きたいんでしょ?」

急に真剣な表情になった三花。私は大きく頷いた。

「うん。大学卒業後は出版社で働きたいって思ってる。いずれは漫画編集ができたらいいなって。三花は学校の先生だっけ?」

「そう。教育学部志望。中学の時周りとうまくなじめなかった時、良くしてくれた先生がいたの。その先生みたいになりたいって思ったんだよね」

「三花みたいな先生がいたらいいな。生徒の気持ちちゃんと分かってくれそうだもん」

将来のビジョンはまだぼんやりとしている。

高校を卒業後の自分もまだ想像できない。

「恋だけじゃなくてそっちのほうも頑張ろ?」

「だねっ!私がもし暴走してたら注意してね、先生?」

「まだ先生じゃないって!」

私と三花はコロコロと笑い合った。
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