泡沫の恋
外はバケツをひっくり返したような土砂降りの雨だった。

門扉の前にいた賢人は「よっ」と右手を挙げて微笑む。

傘を差してはいるけど、全身ずぶぬれで雨対策のためか制服のズボンを膝下までロールアップしているけど、それはきっと無駄な抵抗だ。

「ちょっ、大丈夫??」

賢人の姿を見て一瞬で噴き出した。

「いや、全然大丈夫じゃない」

「あはははは!だよね」

「笑ってられんのも今だけだって。愛依ももうすぐ俺と同じようになるし」

ぶわっと強い風が吹く。

風に煽られた雨粒が突き刺さるように斜めから私の体に降り注ぐ。

さっきまでは無事だったセーラー服がもうびしょ濡れだ。

「傘の意味よ!」

「傘なんて無意味だって。俺、ここ来るまでに3回ひっくり返ってるし。まあ、一緒に濡れようぜ」

今度は賢人が私の姿を見て笑う。

「だねっ。賢人と一緒ならいいや」

私と賢人は揃って歩き出す。

歩いている途中に賢人の傘だけが何回もひっくり返って私はそのたびにお腹を抱えて笑った。

学校に着く頃には骨組みがボロボロになり最後の突風でついにビニール部分が吹き飛ばされた。

銀の骨組みだけになった傘をあ然と見つめる賢人の顔が面白くてゲラゲラ笑う。

そんな私を見て賢人も笑った。

大雨が降りしきる中笑いあってはしゃぐ私達はきっと周りから見たらとんでもなく変な人たちだろう。

だけど、こうやって賢人と笑い合えることに幸せを感じていた。

好きだなって思う。大好きだなって強く思う。

ずっとこうやって賢人のそばにいたい。

「仕方ないから入れてあげよう」

「じゃあ、遠慮なく」

傘を差しだすと、賢人が私から傘を受けとって代りにさしてくれた。

「愛依、もっとこっちよって」

グイっと肩を抱かれて私達の距離はぐっと近くなる。

雨は強さを増す。

傘から出てしまっている賢人の肩はびしょ濡れだ。

「賢人……」

「ん?」

首を傾げて私を見つめる賢人に私はそっと微笑んだ。

「好きだよ」

私の肩を抱く賢人の手のひらに力がこもる。

「俺の方が好きだよ」

じゃれあいながら登校する私たちは周りの人たちにどう見えているんだろうか。

さすがに学校が近くなると賢人は私の肩から手を離した。

それでも、相合傘のまま校門をくぐる。

背が高くて目立つ賢人は嫌でも周りの視線を集めてしまう。

賢人と私を交互に見つめて驚いた様子の女子生徒達がコソコソと内緒話をしている。

ふと賢人を見上げると、当の本人は興味なさげにふわわと眠そうにあくびを繰り返す。

私と賢人が付き合っているってことをみんなに知ってほしい。

知ってるかどうかわからないけどいちかちゃんにも見て欲しい。今の彼女は私だよって。

いちかちゃんは元カノだということを思い知ってほしいなんて意地悪な感情を抱く。

昨日までいちかちゃんと賢人のことで心の中がグチャグチャだったなんて信じられない。

あんなに不安で仕方がなかったのに、賢人が家まで迎えに来てくれて、こうやって一緒にいられて心の底から嬉しかったし安堵していた。

「放課後どこ行く?」

「愛依が行きたいところあるなら付き合うよ」

「えー、どうしようかな。授業中考えとくね」

弾んだ声で言う私に授業中かよと賢人が笑った。
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