泡沫の恋
「あのさ、亜子って誰?」

教室に入るなり机に座ってスマホをいじっていた賢人の前に歩み寄ると、賢人は弾かれたように顔を持ち上げた。

「亜子?妹だけど」

「……妹」

「え、なんで急に?」

不思議そうに尋ねる賢人に私は両手をパチンっと合わせてごめんっと謝った。

突然謝られてさらに訳が分からないという表情の賢人に昨日のことを説明すると、賢人はホッとしたように笑った。

「だから昨日変だったのか。なんか怒らせることしたかなって思ってたんだよ」

「ホントごめん。賢人が浮気してんのかもとか色々考えたらモヤモヤしちゃって……」

「そんな謝んなくていいって。俺も誤解させるようなことしてごめんな」

賢人も亜子ちゃんがメッセージを送ってきた過程を全部話してくれた。

目からうろこだった。

気になったこととか全部聞けばいいんだって今さらながら思った。

聞かないからあれこれ嫌な妄想ばかりして悶々としてしまうんだ。

賢人は不誠実な人じゃない。優しくて信用できる人。だから、聞きたいことは聞いてスッキリしてしまえばいいんだ。

遠くの方から私達のことを心配そうに見つめていた三花。

両手で大きくマルを作ってニッと笑うと三花も笑顔を浮かべた。

これから先もこうやってお互いに歩み寄って付き合っていけばいい。

この時の私はそう信じていた。
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