初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
熱烈なアプローチを続けるクリスティン様に、
意外にもノーマン様は落ち着いて答えられました。

(初恋の人に、ここまで言われて願いが叶ったわね?)


「僕にはまだ婚約者がいるのです
 そんな僕には貴女を愛する資格はありません」

「資格なんて!
 私がこんなにお願いしても、愛してはくださらないの!」

クリスティン様の声が少し大きくなったので、
ノーマン様が宥めようと、されているように感じました。

(どうしたの、喜んでいないの?)


そう感じたのは
ご自分に都合が悪い時、彼は私に対してこのような口調で、誤魔化すことが多かったのです。


「必ず……必ず、婚約は破談に致します
 僕の婚約には双方の家の思惑が絡んでいるの
です
 時間はかかるかもしれませんが、必ず綺麗な身になります
 貴女を辛い立場の女性にはしたくないのです」

(好きなひとに対してなら、誠意のある男性だったのね)


もうこれ以上聞きたくないと、席を立てば
よかったのでしょうか。
それとも。
立ち上がって彼等の前に立ち、婚約者の不貞を
罵れば、よかったのでしょうか。


そのどちらもせずに、私は席を立ちました。


「これ以上、聞く必要はないよ」

それまで何も話さず、ずっと私を心配そうに見つめていたギリアンでした。
彼が小さな声でそう言って立ち、私に手を差しのべてくれたからです。


「僕らは先に出るので、姉上はお会計をお願いします」
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