竜帝陛下と私の攻防戦
 離れなければと頭の片隅にはあるのに、密着するベルンハルトの熱と香りが更に思考を麻痺させていく。

「眠れぬのは、カホの感情と俺の感情が同調し、入り混じっているからだろう」
「感情?」
「互いに離れたくないという、感情だ。俺は、お前に、カホに触れたい」

 甘さを含んだ低音の声を流し込まれ、体の奥から痺れていく。
 捲れ上がったパジャマの裾から侵入したベルンハルトの手は腹を這い、もう片方の手は服の上から胸をやわやわと揉みだした。

「やぁ、待って」

 大きな手で肌を撫でられるのは擽ったくて、ビクッと体を揺らしてしまった。

「んっ、それ、止めて」

 パジャマの釦を外すベルンハルトの指を掴んで止める。
 第三釦まで外されてしまい、はだけた胸元から白レースのキャミソールが覗く。

「先日、欲しいと言ったはずだ。俺はカホを抱きたい」

 ちゅっ、リップ音を立ててベルンハルトの唇が佳穂の首筋へ落とされた。

「えぇっ?」

 今、このタイミングで? 驚きのあまり力がゆるんだ佳穂の手をすり抜け、ベルンハルトの指が残ったパジャマの釦を外していく。

「あっ」

 パジャマのボタンに気をとられている隙に、もう片方の手がズボンのウエスト部から中へ侵入する。
 その慣れた手付きと、パジャマの防御力の低さに焦りと羞恥心が生じてきて、佳穂の瞳に涙の膜が張っていった。
 制止する佳穂の手を無視し、胸元を弄る手は止まらない。
 もう片方の手は太股の奥へと進み、ついには際どいショーツのラインを撫で始めた。

「だめっ」
「……嫌か?」

 ベルンハルトが上半身を引き、密着していた二人の間に僅かな隙間が生まれる。

「俺に抱かれるのは、泣くほど嫌か?」

 切なそうに瞳を揺らして言う彼は本当に寂しそうで、貞操の危機に陥っている状況なのにズキリと胸が傷んだ。

「嫌、じゃない」

 嫌ではなく、ベルンハルトに触れられて、求められて嬉しいとすら思っていた。
 それなのに、彼を受け入れられないのは、このまま流されたくないと思う理由は……

「触れられたら、離れたくなくなるから、ベルンハルトさんが帰った後に寂しくなるから、だから駄目なの」
「フッ、俺はお前に触れたい。今は俺を感じ、俺の事だけを考えていろ」

 目を細めたベルンハルトは、佳穂の指へ自身の指を絡め引き寄せると高慢な言葉とは違う、乞うように指先へ口付ける。
 腕の中に閉じ込められている状況でなければ、切なく瞳を揺らす彼の表情と仕草に見惚れて「抱きたい」という言葉に頷いてしまっただろう。
 全身を真っ赤に染めた佳穂は、コクリと唾を飲み込んだ。

「ベルンハルトさんは、心臓が繋がっているから私を抱きたいの?」
「違う。心臓が繋がっているからではない。俺はカホが欲しいと言ったはずだ。……義務でも性処理でもなく、ただ欲しいと抱きたいと思った女は、後にも先にもカホだけだ」

 自嘲の笑みを浮かべたベルンハルトは胸から手を離し、熱を持つ佳穂の頬へ手の平を添える。
 告げられた台詞は、愛の告白なのかは微妙だが佳穂はベルンハルトから視線を逸らすことは出来ず、二人は無言で見詰め合った。

  冷蔵庫の稼働音がやけに大きな音に聞こえ、呼吸をする音や心臓の鼓動も彼へ伝わってしまうのではないかと感じて、胸元に当てた佳穂の手に力が入る。
 ベルンハルトの顔が近付き、唇が重なる前に佳穂は彼の胸を両手で押して何とか押し留めた。

「ま、待って、問題だらけでしょ。私、こういうことは初めてで、そのキッチンでするとか、無理。それに、元の世界へ戻ったら後宮の綺麗な女の人達が待っているでしょう?」
「女達を後宮に入れているのは義務だと言ったはずだ。お前以外は欲しいと思わないし、他の女では欲情などしない」

 どんな顔をされても情に流されまいと両目を瞑り、ベルンハルトの視線から逃れるため顔を逸した佳穂は首を横に振る。
 仕方ないと呟き、身を屈めたベルンハルトは佳穂の脇と膝裏へ腕を差し込み抱き上げた。

「ベルンハルトさんっ!?」
「俺を忘れらなくなるほど愛してやるから覚悟しろ」

 慌てる佳穂にベルンハルトはニヤリと笑うと歩き出した。

 目指す先は居間の奥、寝室だと気付き抱き上げる腕から逃れようと佳穂は彼の胸を押すが、力強い腕は逃すどころか更に抱き上げる力は強くなっていった。

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