竜帝陛下と私の攻防戦
 レースカーテンを引いた窓から漏れる、朝の日差しを目蓋越しに感じて佳穂の意識はゆっくりと覚醒した。

 目蓋を半分ほど開き、眠気に負けて再び閉じた。
 寝付けなくて何度も寝返りを打っていたからか、とんでもない夢をみた気がする。
 それに何故か体の節々が痛いし重たい。
 未だに朦朧とする意識の中、体の奥から感じる痛みと怠さは何なのだろうかと内心首を傾げる。
 何があったのか思い出すのも億劫で、先程まで寄り添って眠っていた心地良い温もりに擦り寄った。

(え、いつもは私一人で寝ていなかった? これは誰?)

 眠りの淵へ落ちかけて、ふと疑問が頭に浮かぶ。
 普段、一人で寝ているはずなのに何故、背中に誰かが密着しているのか。
 パチリッ、一気に眠気が吹き飛び佳穂は勢いよく目蓋を開いた。

(えぇー!?)

 叫び声は上がらなかった。というか、吃驚しすぎて声にならなかった。

 一糸纏わない裸の自分と背中から腹部へ回されている筋肉質で力強い腕。
 自分を抱き締める腕と密着する背中、太股から背後にいる相手の肌の感触が伝わってくる。
 佳穂と同様、密着して眠る相手、ベルンハルトも一糸纏わない全裸だった。

(ああ、これってまさか)

 恐る恐る視線を後ろへ向けば、佳穂を抱き枕状態にして眠っているベルンハルトの端正な顔があった。

(うっぎゃああー!?)

 絶叫は声にはならず、口をパクパク動かした。
 頭を抱え混乱しながら今の状態になる前、昨晩の記憶を手繰る。

(そうだ、キッチンでベルンハルトさんと会話して、それから……)


『俺を忘れらなくなるほど愛してやるから覚悟しろ』


 昨晩の出来事を全て思い出した佳穂は、羞恥から全身を真っ赤に染めた。
 何度も抱かれたのに、ベルンハルトが回復させてくれたのか僅かな違和感と痛みはあれど、友人から聞いた初体験後の体調不良は無い。

(私、ベルンハルトさんに抱かれたのね。言葉通り、いっぱい愛された……)

 昨夜、体中をベルンハルトの大きな手が這い回り、いたる所に口付けられた。

(変になっちゃうくらい、凄い、気持ち良かった。初めてだったのに。ここまで気持ち良いのは、感覚を共有しているからだってベルンハルトさんは言っていたけど、そうなの?)

 体を開かれていくのは恥ずかしくて堪らなかったのに、こんなの知ったら駄目だと恐怖するくらい、気持ちが良かった。
 頭の中が真っ白になるくらい気持ちが良くて、最後は気絶するように意識を失ったのだ。
 生まれてから今まで感じたことが無いくらい強烈な体験だった。
 今更恥ずかしさで身悶えていても、ベルンハルトに求められて抱かれたのは嬉しかった。

 とりあえず今は、抱き締めているベルンハルトの腕の中から脱出しなければ。と、もがいてみても腰へ巻き付く彼の腕は外れそうもない。
 それどころか、抱き締める腕に力がこもりさらにきつく閉じ込められてしまった。

(ええっ? 起きているの?)

 ベルンハルトの腕と格闘するのを諦め、後ろを向いて彼の顔を見上げる。
 長い睫毛が目元に影を作り少し開いた唇が妙に生々しく見えて、彼の唇と舌の感触を思い出してしまい佳穂の心臓が跳ねた。

(私、やっぱりベルンハルトさんが、好き。もっと一緒に居たいのに)

 目蓋を閉じて抱き締める彼の腕に触れる。
 手の甲へ触れようとした佳穂の指先を、先に動いたベルンハルトの指が絡め取った。

「お、起きて」
「先程から、何やら唸っているかと思えば……お前は本当に可愛いな」

 艶を含んだ言葉を囁きながら、ベルンハルトは背後から熱を持つ佳穂の耳朶を軽く食んだ。

「可愛いいってっ! ひゃっ!?」

 ビクンッと、耳を食み舌を這わされて佳穂は体を揺らす。
 耳を舐める舌の水音がはっきりと聞こえ、恥ずかしさから目を瞑った佳穂は身を縮こませた。

 両手を動かしても逃れようとする佳穂の腹部に背後から手を回し、ベルンハルトはもがく彼女の足を絡ませて自由を奪う。

「ご、ご飯、作らなきゃ」
「まだ、いい。もう少し、カホを感じていたい」

 少し掠れた声で甘く囁かれて、ベルンハルトの強烈な色香に負けた佳穂は、またしても好き勝手に愛されてしまうのだった。
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