年上のお姫さま
ドレスなんて、この国にやってきた時に作ってもらった一着しかない。
薄ピンク色なんて若い子向けすぎる。
十年前になるのか。
わざわざ作ってもらったのにパーティーにも出ないので切る機会もなかった。
着てみると、やっぱり痛々しい。
昔は似合ったのに。
夜、寝巻きの王子様が本を持ってやってきた。
最近はベッドに二人でうつ伏せに横になりながらの朗読である。
ラブロマンス物の続きで、ダンスパーティで、身分差のある男女が少しずつ距離を縮めるところだった。
「やっぱり、オシャレしてダンスするって距離が縮まることなんだなぁ」
王子様は枕を抱っこしてしみじみ言った。
「まあ、そうなんですかね」
「レアは自分の国のパーティーとかで、いい感じになった相手とかいた?」
「父が私を溺愛していたので、近寄って来る男性がいませんでした」
懐かしい。
「あ……、俺余計なこと聞いたよね。ごめんなさい……」
私の父は王子様の父親に殺されたようなものだ。
「いえ、仕方がないことでしたから」
父は、戦争好きな隣国の王と親友だった。だから隣国がこの国に攻めた時に味方した。そして呆気なくやられたのだ。
隣国はこの国に征服された。
祖国は私を捕虜にすることで属国となった。
技術者の多い国ではあったので、友好的にしておきたかったのだろう。
国民から愛された私が王子様に嫁ぐことで、職人たちすらも人質になったようなものだ。
「レア」
「はい」
「一緒に寝ていい?」
「駄目です」
最近はちゃんと自力で部屋に帰っていっていた。
朝まで一緒にいたことはない。
それは国の方針なのだろう。
私に王家の血を引く子供を産ませないための。
そんな気持ちなんて欠片もないのに。
「じゃ、ぎゅってしていい?」
「駄目です」
「じゃ、ほっぺにキスして。そしたら帰るから」
「はあ?」
わくわく期待されている。
それくらいならいいだろうか。
すべすべの頬にちゅっとした。
そしたら潤んだ目で頰を赤くした王子様が、「ありがと」と私の頬にキスしてきた。
あっ……、すごく恥ずかしい。
おやすみのキスくらい祖国でも親にしていた。
こんな子供にキスされて顔が熱くなるなんて。
久々だからだろうか。
親兄弟にしかしたことがなかったからだろう。
王子様は、私のもう片方の頬にもちゅっとキスをして、「おやすみ。明日楽しみにしてるからな」と微笑んで帰っていった。
あああ。
あんな無邪気なお子様にキスされたくらいで動揺する必要はないのに。
自分の頬を触る。
あああああ!
ガサガサしているからキスなんてしたら不快だっただろうに。
スキンケアを久々にした。
唇もちゃんとケアした。
もうこんなキスなんてすることないだろうに、あのすべすべもちもちの頬を痛くしては申し訳ない気持ちになる。