あの真夏の雪を忘れない
それは確かにそうだ。

「よく、世の中には生きたくても生きられない人が居るのに、死のうとするなんて云々…って、非難がましいこと言う偽善者、居るじゃない?だけど、実際に生きたくても生きられそうもない私にしてみれば、そんな風に言われるほうが、よっぽど嫌なのにね。なんだか、所詮は対岸の火事だと思ってるようにしか聞こえないもの」

エイラは、単に無邪気なだけの子かと思っていたが、どうやら全くそうではないようだ。

「ウツだって、本当は生きたいんじゃない?ウツの苦しみとか喪失感は、私にみたいに、漫然と生きてきた人間には完全に理解することはできないけれど…。死にたいと思う人たちって、本当は生きていたくても、耐えられないほどの苦しみがあるから死にたくなるんだと思う。だけど、もし、その苦しみを取り除くことが出来たとしたら、もう一度生きたいって思えないかな」

エイラの言葉に、自分の本心は果たしてどうなのか、少し内省的になってみようと、再び寝転がって白い天井を見つめる。

事故の前の自分は、自分が幸せとか不幸だとか、そんなことは意識したこともなかったし、生きるの死ぬのなどということも、全く考えたことはなかった。

エイラは、自分は漫然と生きてしまったとか、僕のことを一つのことに人生を捧げてきて凄いなどと言うが、そんなご立派なものではない。

他には何もないものの、たまたま陸上だけは能力があったから、それこそ漫然と走り続けただけとも言える。

それなのに、走ることができなくなったからといって、生きる意味まで見失うなんて、矛盾していると気付く。

当たり前のように走ることが出来た頃は、陸上を生きる希望だなんて、特に意識もしていなかった癖に。
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