ヒロイン覚醒要員である黒幕お父様の暴走を阻止します 〜死なないために愛嬌を振りまいていたら、不器用な愛情過多がとまりません〜
 

 ***


 暖かみのある銀の髪。
 宝石をはめ込んだように美しい紫の瞳。

 鏡の中に映るのは、どこからどう見ても美少女――いや、まだ5歳児だから、美幼女というべき?

 ともかく私は今、自分の顔をじっくりと観察しながら重大な記憶について考えていた。

 アリア・グランツフィル。それが私の名前。
 遠い昔、大きな戦争で成果をあげ、当時の皇帝から公爵位を賜った由緒ある家門の令嬢だ。

「うーーん」

 どうしてこんなにも悩んでいるのかというと、それは一度目の人生の記憶が蘇ってしまったからなんだけど。
 姿見の前に立っているのは、今の姿を確認するため。そしてこの小さな頭で現状を把握するのに必死だった。

 1ヶ月くらい前、私はベランダから落下して雪で溺れかけた。危うく凍傷になるところでかなり危険な状態だったのだけど、その時のショックで思い出したのが前世の記憶である。

 前世の私は至って平凡な人間だった。
 家族も友達もいたとは思うけど、自分を含めて顔や名前は覚えていない。唯一鮮明に残っていたのは、前世の私が過ごす平和な日常の風景。
 そして一番最後の記憶は、水の底に沈んでいっているなんとも暗いもので。

(って、溺れ死んでるやないかーいっ)

 と、前世のノリで突っ込んでみる。たしか前世暮らしていた国のある地域の方言だった気がする。

 軽い調子だけど全然笑いごとじゃない。溺死とか最悪だ。


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