好きとか愛とか
 「はぁっ??初めてに決まってんだろ」

当然とばかりに、不機嫌な声の壱矢。
鼻を思いきりつねられてしまった。
痛い…。
当たり前だとは思う。
思うけれど、
でも、どうしても心のうちにとどめておくことが出来なかった。

 「あの、なんか…慣れてるっぽかったです」

そう、
初めてだった私が何を言うのかといったところだが、壱矢からは余裕すら感じられた。
だって全然痛くなかったんだから。
漫画や小説で読んだ限りでは、もっと構えなければならないようなことがつらつら書かれてあったのに、私にはそんな痕跡どこにもない。
ふわふわした甘さしか残っていない。
となると、どこかで誰かと私の前に、と考えるのが自然な流れとなってしまうわけで。

 「慣れてねぇし、心臓ばくばくだったし。そんなん言われてショックだし。前に女の裸見たのだって初めてだって言ったし、なに疑われてんの、俺」

 「すみません」

 「女が教えられてもないのに好きな男の子供産める準備するように、男も好きな女とするこういうのには優しくするように、本能として埋め込まれてんの」

耳まで真っ赤にして、照れながら恥ずかしがる壱矢はまるで中学生かそれ以下の、可愛い男の子だった。
にしても、そんな言い方。

 「…………………生々しいです」

 「誰のせいだよ、うるせぇよ」

がぶりと、首に食いつかれた。
痛くなく、ちょっと歯が当たる甘い噛み方で。
その攻撃がすごくおかしくて、私もお返しに壱矢の喉仏を噛んでいた。
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