好きとか愛とか
 「また火曜に。気を付けていってきてね」

 「うんっ!!じゃあまた火曜に!」

元気に駆け出した安倍さんを見送って、誰もいなくなった校舎を後にした。

 「壱」

校門に差し掛かる手前で声をかけられ、ふり返るとそこには母がいた。
少しひきつった表情で私を見ていて、そんな母が切なく映る。
あれから、あの朝帰りの日からこちら、母も母なりに努力をしてなんとか修復しようとしてはくれているが、うまく行っているとは言えない。
悪くなっているとも言いがたいけれど。
元々不器用な人だから、二つも同時にこなせないのだ。
より一層ひねくれて私を拒絶する愛羅と、その影響もあって家を出てしまう娘との板挟みで疲労がたまっているといったところ。

 「そっちももう終わったの?」

母に歩みより、母も私の方へ近付き、ちょうど中間で足が止まる。
肌寒い風が後ろから吹き抜けた。

 「無事に見届けたわ。立派だった。壱矢君は先生たちと最後のお別れしてるところ。私と恭吾さんは先に帰ろうと思って」

 「そう」

 「壱もすぐに帰る?」

 「私は適当に帰るから」

先輩と部屋に行く約束はしたものの、時間も決めていないしもしかしたら友達たちと卒業の打ち上げなんかをするかもしれない。
最後のお別れ、みたいな。
なので、今日部屋に行くのも半ば諦めた方がいい気もしている。

 「分かったわ。気をつけてね」

襲われた一件もあって、気を付けてがデフォルトになっている。
私に気を遣っているのか、ぎくしやくさがどうにも居心地悪い。
母親にこんな思いをさせている罪悪と、自業自得だという嫌な自分の一面が反発しあっていて疲れてしまう。
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