好きとか愛とか
そう思って苛立ちを覚えると同時に、壱矢が「問題あります」と母の暴走を一旦止めた。

 「待ってください美喜子さん。それはやりすぎです。駄目です。そんなこと壱にさせられません。そこまでしてもらわなくても愛羅が学校で待てばいいだけですから。委員会のあとででも俺が行きますし。壱、俺行くから大丈夫」

 「でもあの辺最近物騒で、ついこの前も女子生徒がつけ回されたって言うし一人で学校で待たせるなんて心配だもの」

確かにあの辺では最近物騒なことが起こっている。
登下校中に女子生徒が声をかけられたり、露出狂的なものまで現れた話はこっちの高校にまで広まっていた。
妹がいる子なんかは特に心配していたのを覚えている。

けど、なら、私は?
じゃあ私はいいの?
その時間までに私が校門まで行って、愛羅が出てくるまでに何かあっても、私なら大丈夫なんだ。
女が迎えに行ったって安心なんかできないでしょうよ。
変なやからがいるなら迎えに行くなら大人の男かそれに近い男子じゃないのか。
今は男も危ない目に遭わされる時代だけれど、だからって、比率的に女じゃないのだろうか。
それとも私に体張って守れと?
今回の件は、母の見当違いなズレた発想の中でもトップクラスである。

 「私高校生だよ?単位あるんだよ?出席日数もあるんだよ?あそこ進学校だよ?お母さん分かってる?」

声が震えているのが分かる。
自分を蔑ろにされたこと、守るべき順番を後回しにされたこと、それに耐えられない自分への不甲斐なさに泣きそうになる。
今さら何を言ってるんだ、私は。

< 48 / 242 >

この作品をシェア

pagetop