好きとか愛とか
 「先輩、毎日待ってもらうのも申し訳ないので帰りは一人で大丈夫です」

登校中、お互いの指が触れるほど近い距離で歩く壱矢にそう進言する。

 「犯人も捕まってないし、なんかあってからじゃ遅いだろ」

 「もう随分経ってますし、なにも変わりありませんから今さらあの犯人につけられるとかは無いと思います」

 「壱との約束守りたいから、好きにさせろよ」

それをいわれたらきつい。
脅されているわけではないが、約束を守る代わりにという交換条件である。
あの日の出来事を他の誰にも話さない、黙っているという約束を守るから私にも言うことを聞けという暗黙の了解だ。
もちろん壱矢はそんなこと言うわけもなく、ただこうやって匂わせてくるだけ。

好きにさせなければどうなるか見えてはいるが、実際にやるかどうか分からないためこちらも迂闊なことが出来ないでいた。
ここまで送迎する気になっている人の気持ちをなだめる術を、私は持ち合わせていなかった。
なので壱矢の気が済むまで付き合うしかないわけなのだが、一つ引っ掛かることが。

 「これはやりすぎなのでは?」

さっきまでは触れる寸前だったのに、いつの間にかガッチリ繋がった二人の手を目の前まで掲げて、何がやりすぎなのかを示して見せる。
これが初めてではない。
送り迎えするだけなのに、壱矢は私の手を繋いで離そうとしないのだ。
学校に着く寸前まで、繋ぎ家の敷地に入るまで、手は繋がったまま。
ここ数日まえから、壱矢が私の手を繋ぐようになった。

 「嫌?」

 「嫌という問題ではなくて、付き合ってると勘違いされそうなので先輩には迷惑かと」

手を繋ぐことには何ら問題はない。


< 87 / 242 >

この作品をシェア

pagetop