大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜


 手を振って母と別れ、その足でバスターミナルへ向かう。


 夜行バスの移動は退屈だ。

 翌朝、空港に到着すると飛行機に搭乗する。


 やっぱり気になる母からの手紙。

 でも、今回だけは母の言う通りにしようと決めた。


 飛行機が飛び立ち、ベルト解除になって私は自由の身になる。


 今まで、よく我慢したなと自分を褒めながら機内で手紙を取り出した。

 隣の席は国外の人だから、日本語なんて読めないだろう。

 隠しながら見ずに、堂々と目の前に広げて母からの手紙に目を通す。


     ※  ※  ※  ※  ※

 美優に伝えたかったけど、強く反対されたの

 お母さんが今のお父さんと再婚する前の、美優の父親のこと

 いつも美優を近くで見守ってる素敵な男性です


 その人とは色々あって離婚したけど、黙っててごめんなさいね

 本当のことを話したら、今の家庭が壊れてしまうことをお父さんは分かっていた

 だから秘密にしておきたかったのよ、ゆるしてほしい


 今の美優があるのは、あの人のおかげ

 やっぱり血筋かしらね、すばらしい感受性とセンスに驚いたもの

 顔や外見はお母さんに似てるけど、やっぱり、親子って凄いわね

     ※  ※  ※  ※  ※


「何が言いたいのかしら……」


 私は首を横に傾げながら、最後に書かれていた一行の文章に目を向ける。



『美優の本当の父親は、ピアノ教室の先生です』



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