待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~
ずっと気になっていたのだけど、この家には、結構いいオーブンがある。
私がお休みだった日曜のその日、柑士さんは日中仕事でいなかったので、家で黙々とあるものを作っていた。
ずっとこれまで辞めていたのに、なんだか急に作りたくなったのだ。
「いい香りだな」
夕方に帰ってきて早々、柑士さんが言う。
私はニコッと笑った。本当にご機嫌だった。
「久しぶりにパンを焼いてみたんです。いいオーブンもあるし、ずっと気になってて。おじいちゃん仕込みだから、これだけはうまいんですよ」
私が言うと、柑士さんは私をじっと見る。
そんな柑士さんの目を見ると、口を開いた。
「言いましたっけ? うちの実家の会社って、昔はおじいちゃんがはじめた小さなベーカリーだったんです。今はもうベーカリーはありませんが」
「……あぁ」
私はオーブンから焼きあがったばかりのパンを取り出した。
その瞬間、またさらに、ふわっと温かな小麦とオレンジの匂いが鼻をかすめる。
私が作ったのは、オレンジブリオッシュ。
バターと卵がたくさん入っているブリオッシュ生地に、カスタードとオレンジをのせて焼いたものだ。