初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます
(あなたが『もう一人立ちしてるから手を出さないでください!』て言ったから任せたんだけどなぁ)
 ただ、それを口に出すとさらに逆上しそうだ。
 
 愛奈は愛らしい見た目を強調するような服装やメイクをしていて、唯花から見ても『かわいい女の子タイプ』だ。
 しかし。
(かわいさで伝票審査はできないし、正常な仕分けも立たないのよ。お願いだから最低限の仕事くらい普通にして……!)

 何かミスがあるとクレームを受けるのは主任の唯花なのだ。
 心の中で叫びながらも「しばらく私も確認するから、奥村さんもダブルチェックを忘れずにお願いします」と告げる。

 愛奈は「はーい」と生返事だ。本当に分かっているのだろうか。唯花がさらに言いつのろうとした時、張りのある男性の声が居室の入り口から聞こえた。

「――すみません、費用処理のことで伺いたいんですが」

 耳ざわりのいい声に振り向くと長身の男性が立っている。

折原(おりはら)さん!」

 先ほどまでの不機嫌さは何処へやら、愛奈はパッと顔を明るくして彼の方に駆け寄っていく。なんという変わり身の早さ。伊賀の忍者もビックリだ。
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