初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます
 透は真剣な表情でこちらを見つめている。請うようなその瞳はとても澄んでいて、真っすぐだ。

 私は間違いなくこの人に必要とされている。そう確信した。

(……もう、いろいろ考えるのはやめにしよう)

 唯花の中にいつもあった、自分を守る防波堤が砂のように崩れていく。

「私も、折原君が欲しい」
 唯花の口から初めて本音が零れ落ちた。

「あなたが好きなの。一緒に幸せになっていい?」
「唯花さん……っ!」

 言うやいなや、強い力で引き寄せられ唯花は透に抱きしめられていた。

「良かったぁ。受け入れてくれて……あぁ、婚約指輪は唯花さんが好きなのにしたいから、一緒に見に行こうね」
 ギュウギュウと頭を掻き抱かれながら歓喜の混ざった透の声を聞く。

「うん、嬉しい」

「改めて家族に紹介したいから実家にも来てくれる?」
「うん、ご家族に会うの楽しみにしてる」

「俺、ちょっと重たいけど覚悟してね。なんせ初恋を拗らせちゃってるから」
「私も折原くんが初恋だよ……だって今まで好きになったの折原君だけだから」
「……くそっ、デレの供給が多すぎて処理しきれない。唯花さんは俺を萌え殺したいの?」
 
 透は一旦抱擁を解くと熱の孕んだ瞳で見つめてくる。

「殺さないよ、折原君はこれから私の旦那さんになってくれる人なのに」
 照れ隠しに笑って言うと透は、ぐぅと声を詰まらせる。よく見ると目元と耳が赤くなっている。

「素直になるとこんなにタチが悪いとは……唯花さん」

 透は綺麗な顔を蕩かせて笑うと唯花の頬を撫で、ゆっくりと覆いかぶさってきた。

「大好きだよ。甘えるのも甘やかすのも一生俺だけにして」
 
 唯花は幸せな気持ちで微笑み、彼の唇を受け入れた。
 
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