【完結】厭世子爵令嬢は、過保護な純血ヴァンパイアの王に溺愛される

最終話 王と王妃

「エリーゼ」

 屋敷のある一室にラインハルトの声が響き渡る。

「ラインハルトさ、ま?」

 真紅のドレスを身にまとって圧倒的なヴァンパイアの力で元老院の一人を倒したエリーゼは、やって来たラインハルトのほうへと目を向ける。

「アンナ。よくやった」
「いえ、私は何もしておりません。王妃様が全てお裁きになりました」

 裁きという言葉で老人へ断罪を報告したアンナは、さっと跪く。

「じゃあ、帰ろうか」

 そう言って差し出された手をエリーゼは取った。



◇◆◇



 エリーゼとラインハルトは、エリーゼの自室にいた。
 ラインハルトの部屋は老人たちの血で汚れていたため、処理をしているところだった。

「エリーゼ」
「ラインハルト様、勝手に家を飛び出して申し訳ございませんでした」

 エリーゼは勢いよく頭を下げるが、ラインハルトの腕が顔を上げ、そしてそのまま抱きしめられる。

「無事でよかった。それに、君は力を覚醒させたんだね」
「あの時、私が私でないようでした。あれは本当に私の力なのですか?」
「紛れもない君自身のヴァンパイアと、そして稀血が融合した新しい力だよ」

 エリーゼはラインハルトの腕の中でアンナと話したことを語り始める。

「アンナに王妃になる覚悟を持てと言われました。私は言われて気づく大馬鹿者ですが、私はラインハルト様の傍にいたい。支えたいんです」

 ラインハルトはその言葉を黙って聞きながら、そっと髪をなでる。

「これから立派な王妃になれるように努力します。そして、私は……私は……」

 エリーゼは漆黒の瞳を潤ませながら、ラインハルトを見つめて言った。

「私はラインハルト様を好きになってもいいですか?」
「──っ!」

 ラインハルトはその言葉に少し驚く素振りを見せるが、すぐさま少し微笑むとなんとも愛おしそうにエリーゼを見つめる。

「こんな私を好きになってくれるのかい?」
「はい」
「元老院から聞いたのだろう? 私は両親の仇だよ」
「それでも」
「同じ血が流れているからかもしれないよ」
「それでも私はあなたと生きる決心をしました。私にあなたを愛させてくれますか?」
「もちろんだよ」

 そう言って、二人は抱きしめ合ってそっと唇を重ねた。
 血で結ばれた絆は、心を通わせて愛を育む。
 王と王妃の少し歪んだ愛はこれから何千年も続くヴァンパイア王政のはじまりだった──
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