S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
許嫁だったから意識的にそうなっただけなのかもしれない。だとしても、あの頃からずっと助けてくれていたのは、彼に情があったからに他ならない。
言葉にならない感動が押し寄せてきて瞳が潤む。エツは優しい表情で、今にも涙がこぼれそうな私の頬に手を当てる。
「泣くほど嫌か」
「違う。嬉しいんだよ」
わかっているくせに。嫌ならとっくにこの腕を振り解いているって。
私は首を横に振り、彼の背中に手を回してぎゅっとしがみつく。
「私もずっと、大好きだったから」
素直な気持ちを告げると、彼がそこはかとなく嬉しそうな笑いをふっとこぼした。
この先どうなるかはわからない。仕事に関しても、両親に認めてもらえるのかも、問題はたくさんある。
けれど、想いが通じ合っただけで今は十分。許嫁を解消したと同時に解けた赤い糸を結び直すように、私たちは宵闇の中でしばし強く抱き合っていた。