S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
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──まるで中世都市かおとぎ話の世界に迷い込んだみたい。
白や淡いオレンジの壁に重厚感のある木枠が施された建物と、窓辺や川沿いに咲き乱れる花が美しい街並みを眺め、私は感嘆のため息を漏らした。
ここストラスブールはフランスの北東部にあり、ライン川を挟んでドイツと国境を接している。一時ドイツ領にもなっていたため独特の文化を持つ街で、コロンバージュという伝統的な木組みの家が立ち並ぶ。
クリスマスの時期にはとても可愛らしいオーナメントや装飾で溢れるらしいが、六月上旬の今は代わりに鮮やかな花がたくさん飾られていた。爽やかな暑さの風に乗って花の香りが漂ってきそう。
「すっごい可愛い街……。これ、容量なくなっちゃうんじゃないの」
プティット・フランスと呼ばれるこの辺り一帯はどこもかしこも写真に納めたくなるほど素敵で、私はスマホのカメラを構えつつひとりごちた。
レストランやカフェは、赤いチェック柄のテーブルクロスや動物のオブジェが目を引く店が多く、乙女心をくすぐる。屋根からぶら下がる凝った看板すらも可愛くて、写真を撮りまくっているがキリがない。