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 今日が土曜日でよかった。泣いて目が腫れても、日曜日が回復してくれる。
 月曜日からは、ちょっと旭の顔を見るのがしんどいかもしれない。20時になったら、送ったメッセージを取り消して、なにごともなかったようにしなければ。

 間違っても、仕事に支障が出ないように、それは想いを告げた千真がしなければならない、最低限のマナーだ。
 恋にうつつを抜かして仕事を疎かにするなんて、絶対にしてはいけないことだし、なによりも旭に見損なわれたくない。

「……」

 あ、やばい。すでに涙が出てきそうだ。
 せめて泣くなら、20時を過ぎてからにしよう。万が一旭が来たときに、泣き顔なんて晒したくない。

 千真は、ふぅ、と大きく息を吐き出す。何度気合いを入れても顔を上げられないでいた千真の視線に、はらりと肩から落ちてきた髪が映る。
 普段はポニーテールでまとめている髪も、今日は下ろしている。いつもと違う千真に、少しくらいときめいてくれないだろうか、なんて淡い期待を抱きつつ、毛先を指で弄っていると、視界の先に男物の靴が映った。

 瞬間、きゅう、と胸が締めつけられる。
 大神さんっ、と喜んで顔を上げた千真は、鳩が豆鉄砲を食らったように、目を大きく見開いた。

「下向いてんじゃねえよ。捜せねーだろうが」

「……え?」

 千真が恋焦がれて待っていたのは、色素が薄いのか、茶髪の、少しだけ伸びた前髪から覗かせる目で見られると胸がときめきで弾む大神旭で、間違っても、黒髪の短髪で、鋭い目で見られると、恐怖から胸が締めつけられる大狼(おおがみ)駿介(しゅんすけ)ではない。

「な、なんで、大狼さんがここに?」

 千真の頭の中は、『?』で埋め尽くされていた。意味が判らない。

「おまえが、昨夜連絡してきたんだろーが。10時に無花果通駅で待ってるって」

「はぁ?」

 そんなの、駿介に連絡した記憶なんてない。千真が連絡したのは――。
 そこではっとして、千真はスマホを確認する。千真が送ったメッセージの、トーク画面の宛先は……、『おおかみさん』。
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