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 オーキッドには、漢字こそ違うものの、『おおがみ』さんがふたりいて、ひとりはもちろん、千真が待っていた、憧れの大神旭で、もうひとりは、千真と同じく役職なしの同僚とはいえ、年上で威圧感のある大狼駿介だ。
 ふたりとも『おおがみ』で紛らわしいから、千真はスマホに、『おおがみさん』と『おおかみさん』というふうに分けて登録していた。『おおかみさん』というのは、苗字に『狼』の漢字が使われているというのもあるし、なによりオオカミのように怖かったからだ。

 それなのに。わざわざ判りやすく登録していたはずなのに、間違うとか……。
 ありえない。

「これは……。間違い、ですね」

「だろうと思ったけどな。待ちぼうけ食らわすのも目覚めが悪いから、念のため、様子を見に来てやったんだよ」

「……」

「ありがとうは?」

「く……っ」

 悔しい。悔しいけれど、これは千真の過ちが引き起こした結果だ。

「っていうか、間違ってるって返信してくれてもよくないですか!?」

「おまえがいきなりあんなメッセージ寄越すから、びっくりしてスマホを落としたんだよ」

 その衝撃で壊れたというスマホは、なるほど、電源が入っていることは辛うじて判るが、文字なんてとても判別できそうにはないほどにガラスがひび割れ、残念なことになっていた。

「弁償してほしいくらいだ」

「理不尽!」

 千真はわなわなと唇を震わせて、駿介を睨む。こんなはずじゃ、なかったのに。
 泣きたいやら喚き散らしたやら、散々だ。千真の一世一代の告白は、どこへ消えてしまったのか。

「その様子じゃ、どうせ暇だろ。付き合えよ」

「ど、どこに!?」

「スマホショップ」

 有無を言わさず、腕を引かれる。まったくもって、冗談じゃない。

 今日の勇気のために、おろしたてのワンピースを着てきたのは、間違っても駿介のためじゃない。旭に、かわいいと言ってほしくて、かわいく着飾った自分を見てほしくて、少しばかり高かったけど、奮発して買ったのに。
 一体どうして、こんなことになってしまったのだろう。

「は、放してください〰〰」

 涙ながらに訴えるも、当然、駿介には聞き入れてもらえなかった。
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