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「そのくらいにしなよ、駿介」

 ぷるぷる震える千真の頭に、旭の優しい手が触れる。旭は困ったように駿介を見て、小さく息を吐いた。

「駿介は、判りづらいんだよ」

「ふん」

 諫めるように言われ、駿介は背中を向けて道路沿いに向かう。

「気にしないで仕事に戻れって意味だと思うよ。詳しくは知らないけど、駿介が怪我をしたのは自業自得だし」

「で、でも……」

「うん。でもそれじゃあ、賀永さんの気が済まないんじゃないかと思ったからね、駿介に付き添うようにお願いしたんだけど」

 余計なお世話だったかな、と眉尻を下げられたので、千真は慌てて首を横に振った。
 旭は千真のメッセージを見て、そのとおりにしてくれただけなのだ。決して、旭が悪いわけではない。

「駿介のこと、お願いしてもいいかな? 仕事が終わったら、俺もすぐに帰るから」

「わ、判りました」

 千真は腕で涙を拭うと、旭に頭を下げる。駿介の元へ行こうと背中を向ければ、そういえば、と声を投げられ、立ち止まった。

「それ、まさかとは思ったけど、やっぱり駿介だったんだね」

「……!? し、失礼しますっ」

 うなじを指さされ、真っ赤になって一礼すると、今度は振り返らずに駿介のところに駆け寄った。
 やっぱり、旭は優しい。なにより言い方が優しいし、それに包容力がある。駿介とは大違いだ。

 それでも今は、そんな旭に背を向けて、駿介の元へ駆けている。仕方のないこととはいえ、なんだか複雑な気持ちを抱えながらタクシーを待つ駿介の隣に立つと、諦めたふうにため息を吐いた駿介から、鞄を渡された。
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