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 バスタオルを腰に巻いた姿でリビングを徘徊し、袋に入ったままの包みを発見する。その下には2000円も置いてあって、千真からだというのはすぐに理解できた。

「バレンタインのチョコだと思うよ。俺も貰ったし」

「そうかよ」

 ――お金、貸してもらえませんか?

 怯えながらも、駿介に声をかけてきた千真を思い出す。
 確かに、バレンタインチョコなんて、駿介のお金を使えるわけがない。しかも、旭にあげるものだとしたら、なおさら。

 それにしても、旭には手渡しで、駿介にはただ置いてあるだけって、この違いはどうなんだ、とまた腹が立ってくる。ずっと一緒にいたんだから、いくらだって渡す機会はあっただろうに。

 千真のことを考えると、頭が痛くなってくる。はー、と息を吐き出せば、旭が買い物をしてきた袋の中身をテーブルに並べた。

「これ、賀永さんに頼まれた熱冷まし。そういえば、駿介、俺が賀永さんと電話でしゃべってるときにも、手出してただろ? 途中で気づいて、めちゃくちゃ恥しかったんだけど」

「それに気づいてたんだったら、来る時間は調整すべきだったな」

「いやいや、怪我人が、なにしてんだよって話だろ」

 それもそうか、とも思う。駿介が水のペットボトルを手に取ると、キャップを口に咥える前に旭に取られ、開けられる。それと一緒に薬を渡されて、ふ、と口元を綻ばせた。

 ――先におにぎりを食べてください。

 熱のせいか、思考回路がおかしい。ひとつひとつのことに、千真を思い出すなんて。

 今は、おにぎりを食べるように言ってきた千真はいない。
 駿介は痛み止めと熱冷ましを水で流し込むと、口元を手で拭った。
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