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 旭が駿介の部屋に戻ると、駿介はリビングにはいなかった。代わりにバスルームのほうから音が聞こえてくるので、そちらへ足を向ける

「駿介」

 扉越しに声をかければ、聞こえづらかったのか、駿介はシャワーを止めた。

「大丈夫か? 頭、洗ってやろうか?」

「いい」

 断りはしたものの、実際のところ、上手く洗えている自信はない。
 けれどそれを、28歳にもなった男が、28歳の男に頼むのはいかがなものか。どうせなら千真がいる間に、千真に洗ってもらえばよかったと今さらながら後悔する。

「さすがに、賀永さんにそこまで手伝わせてたらどうしようかと思ったけど」

「……」

 考えを読まれたのか、そう言われて、思わず舌打ちする。
 扉を開ければ、旭がバスタオルを手に待っていた。頭からそれを被せられ、否応なしに頭を拭かれる。

「賀永さんがかわいいのは判るけど、あそこまで痕つけたら、ちょっと気の毒だよ。もう少し、自重しなよ」

「うるせーな」

 そんなことは、旭に言われなくても判っている。
 駿介は歯噛みすると、頭を拭いてくれている旭の手を振り払ってバスルームをあとにした。

 大体にして、最初から気に入らなかったんだ、千真のことは。
 入社当初から、駿介に対しては怯えたような顔をして、ちょっと声をかけただけで顔を引きつらせる。目付きが悪いのは生まれつきだし、それを今さらどうこうできる問題でもないが、なにもしていないうちからああやって怯えられるのは、正直面白くない。
 男嫌いなのかと思えばそうでもなく、駿介以外の男とは普通に接しているからなおさらだ。

 だから少しばかり、虐めてやろうと思っただけなのだが。
 男慣れしていないのが丸判りで、少し触っただけでも敏感に反応する。誤算だったのが、その反応に、自分の性欲をくすぐられたことだった。
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