@love.com
仕事、辞めようかな。ぼんやりとそんなことを考えながら、千真は家路についていた。
身の程も知らず、旭に告白しようとしたばっかりに駿介に絡まれるようになって、挙句、その駿介に怪我をさせて、その制裁を冴子と友美から受けることになってしまったのは、身から出たさびと言える。
おんぼろアパートが、千真には合っている。あんな高級マンションに足を踏み入れる機会なんて、そうそうあることではないし、いい思い出になったじゃないか。
ゆっくりとアパートの階段を上り、軋む音に口元を綻ばせる。
旭に会えなくなるのは、ちょっとばかり寂しいかな。告白もできなかったけれど、それでも旭と一緒にいられた空間は、それだけで幸せだった。
それに、初めて男友達もできた。圭樹は話しやすいし、一緒にいて気が楽だった。圭樹が同期で、本当によかった、と思う。
それから。
千真は、小さく息を吐き出した。
元はと言えば、千真が間違ってメッセージを送ったのが原因だ。そのせいで、駿介に絡まれるようになって、旭には情けないところばかり見られてしまって。
きっかけは千真だったかもしれないけれど、あとは全部駿介のせいだ。駿介のせいで、こんなにも――好きに、させられた。
悔しいけれど、認めざるをえない。
千真は今、旭よりも駿介のことが気になっている。だからこれ以上、関わりたくない。
玄関の鍵を開けて中に入れば、ふわりと香水の匂いが香ってきて、胸が締めつけられる。そういえば昨夜、うちに来てくれたな、と思ったら、視界が滲んできた。
本当は、この家に帰ってくるのが怖かった。けれど、駿介が応急処置をしてくれたから、我慢できる。壁の絆創膏に笑みをこぼしながら、千真は着替えを用意して風呂場の前で服を脱いだ。
真新しい傷痕に、唇を噛んで手を添える。目に見えるのは腹周りだけで、背中はどうなっているかわからない。冴子の指が食い込んだところは、赤紫色の内出血になっていた。
本当は、会社員なのだから、ちゃんと退職願を提出して、1ヶ月は勤めるべきだろうが、そんな悠長なことをする気力がない。もう明日から、会社には、というより、家から1歩も出たくないのに。
ここ2日で急激に増えた身体の傷を見ながら、涙が溢れてくる。
きれいに消えてくれるだろうか。痕に残ったら、もう半袖なんて着れないし、水着なんて絶対無理だ。
そんな身体を見るのも億劫で、さっさとシャワーを浴びてベッドに潜る。
本当に、社会人としてありえないと自覚していながら、旭に、『今日付で辞めさせてください』というメッセージを送り、後ろを振り向かないよう、あえてスマホの電源を切って眠りについた。
身の程も知らず、旭に告白しようとしたばっかりに駿介に絡まれるようになって、挙句、その駿介に怪我をさせて、その制裁を冴子と友美から受けることになってしまったのは、身から出たさびと言える。
おんぼろアパートが、千真には合っている。あんな高級マンションに足を踏み入れる機会なんて、そうそうあることではないし、いい思い出になったじゃないか。
ゆっくりとアパートの階段を上り、軋む音に口元を綻ばせる。
旭に会えなくなるのは、ちょっとばかり寂しいかな。告白もできなかったけれど、それでも旭と一緒にいられた空間は、それだけで幸せだった。
それに、初めて男友達もできた。圭樹は話しやすいし、一緒にいて気が楽だった。圭樹が同期で、本当によかった、と思う。
それから。
千真は、小さく息を吐き出した。
元はと言えば、千真が間違ってメッセージを送ったのが原因だ。そのせいで、駿介に絡まれるようになって、旭には情けないところばかり見られてしまって。
きっかけは千真だったかもしれないけれど、あとは全部駿介のせいだ。駿介のせいで、こんなにも――好きに、させられた。
悔しいけれど、認めざるをえない。
千真は今、旭よりも駿介のことが気になっている。だからこれ以上、関わりたくない。
玄関の鍵を開けて中に入れば、ふわりと香水の匂いが香ってきて、胸が締めつけられる。そういえば昨夜、うちに来てくれたな、と思ったら、視界が滲んできた。
本当は、この家に帰ってくるのが怖かった。けれど、駿介が応急処置をしてくれたから、我慢できる。壁の絆創膏に笑みをこぼしながら、千真は着替えを用意して風呂場の前で服を脱いだ。
真新しい傷痕に、唇を噛んで手を添える。目に見えるのは腹周りだけで、背中はどうなっているかわからない。冴子の指が食い込んだところは、赤紫色の内出血になっていた。
本当は、会社員なのだから、ちゃんと退職願を提出して、1ヶ月は勤めるべきだろうが、そんな悠長なことをする気力がない。もう明日から、会社には、というより、家から1歩も出たくないのに。
ここ2日で急激に増えた身体の傷を見ながら、涙が溢れてくる。
きれいに消えてくれるだろうか。痕に残ったら、もう半袖なんて着れないし、水着なんて絶対無理だ。
そんな身体を見るのも億劫で、さっさとシャワーを浴びてベッドに潜る。
本当に、社会人としてありえないと自覚していながら、旭に、『今日付で辞めさせてください』というメッセージを送り、後ろを振り向かないよう、あえてスマホの電源を切って眠りについた。