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「トマトソースオムライスとたっぷりキノコのオムライスをひとつずつ」

「かしこまりました」

 ウエイトレスが注文を聞いて遠ざかっていくのを尻目に、千真は嘆息した。

「なんだよ、おまえがオムライス食べたいって言ったんだろ?」

「……言いましたけど」

 千真が気になっているのは、そこじゃない。旭とデートをするはずだった今日、どうして駿介と食事に来ているかということだ。
 おまけに、駿介の目の前に置かれた真新しいスマホと、自分の鞄から出すことをためらってしまったスマホは、なぜかお揃いの色違い機種。駿介が白を買おうとしたのを思わず止めて、気がつけば千真が白を契約していた。
 駿介は気を遣ってくれたのか、黒を選んでくれ、結果として色違いということになってしまったのだが。

 お互いの座る椅子の横には、同じスマホショップの袋が置かれていて、それがなんだかとてもむずがゆい。どうして購入するときに、お揃いになってしまうということに気づかなかったのか、甚だ疑問ではあるか、かといって今さら、解約することなんてできるはずもなく、お揃いのスマホを仲良く買いに行った恋人同士みたいな構図ができあがってしまった。

 新しいスマホを手に入れた嬉しさから、駿介になにが食べたいか聞かれ、嬉しそうに「オムライス」と答えてしまった自分が恨めしい。店に入って、なに食べようかな、なんて呑気に考えて、駿介がそれを注文したときに、初めてこの光景がおかしいことに気がついた。

(気づくの遅すぎでしょ……)

 本当に、自分でもびっくりする。浮かれすぎて、今の状況に気づくのが遅くなった。

 ちらり、千真は目の前で買ったばかりのスマホをいじる駿介に視線を向ける。
 千真のタイプではないけれど、駿介もそれなりに人気があるのは知っている。同じ経理部で、役付ではないが、仕事ができて、ほかの部署の手伝いに行っているのも見たことがある。旭とは幼なじみで仲がいいらしく、ふたりでいるのをよく見かける。
 ふたり並んだ画像が社内で拡散され、騒ぎになったこともあるらしいが、それはまだ千真が勤める前のことなので、詳しくは判らない。
 千真のタイプではないのだが。

 そういえば、とようやくそこで、千真は店内の女性がチラチラとこちらを見ていることに気がついた。
 女性の視線の先には、千真の目の前でスマホと戦う駿介がいて、その熱い視線に混じった冷たい視線に、悪寒がする。せめて、妹だと勘違いしてくれればいいのに、と視線を送ってくる女性に念を送るも、当然、そんなものが通じるはずもなく、ウエイトレスがオムライスを運んできた。
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