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 気にするだけ、無駄かもしれない。刺さる視線が気になるが、千真は手を合わせてスプーンを取り、湯気の昇るトマトソースオムライスをひとさじ掬ったところで、目の前のキノコたっぷりのオムライスにかかっているデミグラスソースの匂いが届いた。トマトソースを食べたかったけれど、匂いを嗅いだらデミグラスソースも食べたくなってきた。
 千真は無意識に、駿介が食べようとしているキノコたっぷりのオムライスを凝視してしまい、それに気づいた駿介が、ひとさじ掬ったスプーンを、ほら、と千真の口元に差し出した。

「な、なんですか?」

「そんな顔で見られたら、食うに食えねぇっつの。いいから、食え」

 ほら、とさらにスプーンが千真の口に近づいてきて、思わず、パクリとそれを咥えた。

 ああ、やっぱり美味しい。頬に手を添えて、もぐもぐと満足気に咀嚼する千真を見つめ、駿介も口元を綻ばす。

「美味いか?」

「おいひぃでふ〰〰」

 千真のその幸せそうな顔をもっと見たくなり、駿介はまた、ひとさじ掬って千真の前に差し出す。
 その光景に躊躇していたのも3回目までで、4回目以降は慣れたものだった。

 結局、駿介のオムライスを半分以上食べてしまうこととなり、千真のオムライスも仲良く半分こして食べている姿がバカップルにしか見えないということに気づいたのは、昼食後、映画を立て続けに3本も見て、夕食まで一緒に食べたあとに帰宅してからだった。
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